研究概要 |
私は、ニワトリBリンパ細胞株が高等真核細胞(ヒト、昆虫、植物など)のなかで唯一、酵母のように遺伝子ノックアウトやノックインが高頻度に起ることを見い出した(Buerstedde, J.-M.& Takeda, S.Cell,67:179-188,1991)。よってDT40を含むニワトリBリンパ細胞株は、高等真核細胞で唯一、酵母の実験系のような系統的な"機能の破壊"の実験が行なえる系である。我々は、様々なDNA修復経路、チェックポイント経路の1重/2重変異クローンをDT40から系統的に作成し表現型を解析した。そして各経路が、(1)ゲノム構造維持、(2)放射線照射/シスプラチンなどによって生じたゲノム損傷の修復の2点において、どのような役割分担をしているかを系統的に解析した。ゲノム構造維持機構の破たんは、変異や染色体異常の蓄積を促進する。一方、放射線照射/シスプラチン処理後の細胞の反応の解析は、よりよい癌治療の開発に重要である。ゆえに、我々の研究は、発癌機構の解明と治療方法の開発の両方に貢献できる。 平成15年度は、損傷乗り越えDNA合成(pol κ、polζ、Rad18)が、シスプラチンなどクロスリンカーによるDNA損傷の修復に重要な役割を持つことを解明した。さらに、これらの遺伝子欠損株を女性ホルモン(4OH estradiol)や女性ホルモンの拮抗役(タモキシフェン)で処理すると、多数の染色体断裂が発生することがわかった。すなわち、女性ホルモンやタモキシフェンは、従来知られていた発がんプロモーターとしての活性だけでなく、イニシエーターとしての活性もあることが明らかとなった。
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