研究概要 |
脳の視交叉上核(SCN)に存在するニューロン群は日周振動子の生理学的実体と考えられる。(1)時計遺伝子を含む哺乳類の振動機構をモデル化した。これは、Per,Clock,Cry,Bmal1,Decからなる転写・翻訳フィードバックループの酵素反応系からなっている。このモデルは、Per,Cry,DecとBmal1とが逆位相関係を保ちながら振動しており、また、、Per,Clock,Cry,Bmal1のノックアウト実験の結果を再現した。また、Decをノックアウトした場合について振舞いを予測した。さらにCREBのリン酸化レベルの日周変動を転写・翻訳ループの外部に結合し、光変換機構のモデル化を行った。これにより、位相反応曲線に不感領域が現れ、実際の位相反応性を再現するものとなった。(2)分子レベルからSCN全体をモデル化するために、分子レベルの振動モデルを15変数から4変数へ縮約し、その振動解の振舞いや位相反応性について調べた。その結果、この縮約は詳細な記述によるモデルの力学的な性質を定性的には保存していることが明らかになった。さらに縮約モデルを拡散で結合した系についてそのダイナミクスを調べた。その結果、Perあるいはそれと同相で動いている変数に関連した拡散が系全体での同期性に支配的な役割を担っていることが明らかになった。(3)行動レベルから振動子への適応的なフィードバックを有する位相振動子モデルに新たに光応答性を導入し、時差飛行時の日周振動子の振舞いをシミュレーションした。それにより、順行性、逆行性、分離再同調が生じる条件を明らかにした。また、運動によって分離再同調が防止されることが明らかになった。以上は階層的集合振動体としてのSCNの生体リズム機構から、行動レベルまでを見通した統合的なモデル化による独自の成果である。
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