研究概要 |
既知情報に依存しない非経験的なタンパク質立体構造の高速シミュレーション技術を開発することを目的に,タンパク質立体構造の動的側面と静的側面を有機化学的な視点(即ち,原子レベルの相互作用)から解析した。まず,(1)量子化学計算の結果に基づいた非経験的分子力場(SAAP)の開発では,新たに購入した高速コンピュータシステム(15CPUのクラスターマシン)を用いてセリンのSAAP力場パラメータを作成した。セリンには内部回転可能な結合が4つ存在する。全ての二面体角を15度ずつ変化させながら,セリンの4次元ポテンシャルマップの作成を計画した。計算はほぼ終了し,真空中,エーテル中,水中のポテシシャルの解析を進めている。このように網羅的な単一アミノ酸ポテンシャルの解析は以前には例がない。分子シミュレーション用のプログラム開発も同時に進めており,現在,単一アミノ酸のポテンシャルを主鎖の部分と側鎖の部分に分離する手法の開発を進めている。これが可能となれば,20種類全てのアミノ酸に対応したSAAP力場を2年以内に完成させることができる。次に,(2)タンパク質構造データベース(PDB)の解析による原子レベルの相互作用の解析では,研究代表者が最近発見したS…O相互作用について,タンパク質の機能や進化との関係を解析した。モデルとして,リボヌクレアーゼA,リゾチーム,ホスフォリパーゼA,インスリンの4つのタンパク質を用いた。その結果,S…O相互作用がタンパク質の基質認識に関与している例を1つ見出し,また,全ての場合においてS…O相互作用がタンパク質の進化(系統樹)と相関をもつことが明らかになった。S…O相互作用の進化的な保存性が確認されれば,ゲノム科学的にも大変意義深い。
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