研究概要 |
遺伝子を数十含む程度(数10kbp〜Mbp)の非常に長いDNAでは,剛直な荷電高分子としての性質が顕となり,多価カチオン・塩基性タンパク質・水溶性高分子等を含む溶液環境の変化に応じ,分子鎖全体がon/off型の折り畳み転移を示す。代表者はこれまでに長鎖DNA単一分子鎖の直接観察による実験と,高分子物理学に立脚した理論研究から,この劇的な高次構造転移がLandau流の一次相転移であることを世界に先駆けて明らかにした。近年,染色体DNAにおいて,グローバルな凝縮状態の変化と遺伝子群の発現活性の相関が示唆されているが,そのメカニズムには不明な点が多い。代表者は,高分子物理学研究の知見が,このような遺伝子発現制御機構の理解に資するものと考え,長鎖DNAの物性に対する生物学的意義のさらなる解明を目的とする本研究を実施した。 本年度の主な研究実績は,物性研究とそれに関連する生化学的研究に大別される。 1.折り畳み相転移ならびに折り畳み(凝縮)状態の構造特性について 長鎖DNAの多彩な折り畳み状態のうち,細胞内におけて選択的な遺伝子活性を示している長鎖DNAのモデルとして,分子鎖内相分離構造の研究を進展させた。さらに,濃厚DNA溶液系におけるファイバー構造が現れる一般条件を明らかにすることができた。また,凝縮剤設計および溶液環境の選択により,これらの多彩な折り畳み状態を実験的に実現し,その微細構造を原子間力顕微鏡等により解析した。 2.折り畳み状態と生物化学的な機能活性の関連について 長鎖DNAを鋳型としたin vitro転写実験により,転写活性の劇的変化が折り畳み相転移にともなうことを種々の溶液条件で示した。また,DNA上の転写反応を直接観測する実験システムを開発し,活性と高次構造のスイッチングの相関を単一分子鎖レベルで確認した。本方法の確立により多様な凝縮状態と生化学活性の関連性を解明する研究の進展が可能となった。
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