研究概要 |
遺伝子発現プロファイルデータにおける共分散構造を表現するための適切な確率モデル、およびそのための事前分布を検討した(Oba, Sato, Ishii,2003)。これを別途論文化した欠測補填法(Oba, et al.,2003)に適用することで、モデル化が適切であることを確認した。一方で、遺伝子発現データは一般に含まれるノイズの大きさに比べてデータ量が少ない。それを補うためには、多くの生命データに階層性が存在すること、および文献データに基づく事前知識の活用が有効である。ベイズ推定に基づく多項分布ベイジアンネットワークを定式化し、枯草菌のオペロン構造予測に適用した(Shimizu, Oba, Ishii,2003)。また、少ないデータ量からダイナミクス(遺伝子ネットワークの動的挙動)を同定(グラフィカルモデリング)するために、線形ダイナミカルシステムのベイズ推定法を開発し、酵母菌の公開データに適用した。その結果、細胞周期に依存した内部状態の変化を抽出することができ、また、システムを駆動する外的あるいは内部駆動因子の数は高々2から4次元程度であることが分かった(Yukinawa et al.,2004)。客観的な統計的基準に基づき内部次元数を決めることができ、また推定の精度自体も客観的尺度により評価できるのが本手法の特徴であり、今後は微生物の転写制御データに適用することで論文化を図る。 また現在、発現プロファイルデータの共分散構造に対して適切な事前知識(スパースネス)を導入することで、高い推定精度を持つ解析法を開発した。癌の予後予測問題に適用して良い結果を得ており、現在論文投稿中である。この手法では、定量的尺度(確率的出力)により予後予測が可能であることも特徴である。
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