研究概要 |
1)嗅球における匂い地図の解析:本研究では、嗅球における空間的な糸球マップ形成の分子機構を理解する為、マウス嗅覚受容体(odorant receptor ; OR)遺伝子MOR28クラスター(J. Neurosci.19,8409,1999)を含めた複数のクラスターに関して、OR遺伝子を発現する嗅細胞の投射先を解析した。その結果、"同一クラスター上に隣接して存在し、相同性の高いOR遺伝子ファミリーを発現する嗅細胞は、類似した匂い分子を受容し、嗅球においては局所的な糸球ドメインに軸索を投射する"ことが示唆された。また、どの様な種類のORを発現する嗅細胞が、MOR28に対する糸球の近傍に投射するのかを知る為、同一ゾーンで発現するOR遺伝子ファミリーに関して、嗅球における投射先を、in situ hybridization法とlaser micro-dissection法を用いて検討した。これらの解析から、必ずしもMOR28遺伝子ファミリーと相同性の高いOR遺伝子ファミリーを発現する嗅細胞が、MOR28糸球近傍に軸索投射しているわけではないことが判明した。そこで更に、どの様なパラメータが、MOR28糸球近傍への投射に関与しているのかを知る為、近傍の糸球に対応するORの、嗅上皮における発現様式を解析した。その結果、興味深いことに、これ迄提唱されていた嗅上皮の四つのゾーン構造が、ORの発現に依存してサブゾーンに細分化されること、及び、嗅上皮でのORの発現サブゾーンが、嗅球での投射サブゾーンに対応して、大まかな投射位置を規定することが明らかになった(submitted)。 2)嗅上皮で領域特異的に発現する遺伝子の解析:OR遺伝子は、嗅上皮において大まかに、四つのゾーンの中のいずれか一つで発現しているが、ゾーンの生物学的な意味は未だ不明である。そこで、ラット嗅上皮においてゾーン特異的に発現する遺伝子をdifferential display法を用いて検索した結果、OR遺伝子の他に、複数の新規遺伝子を単離した。その中でも、ゾーン1特異的な新規遺伝子o-macsは、medium-chain acyl-CoA synthetase遺伝子と高い相同性を示し、嗅上皮を構成する殆どすべての細胞種で発現し、然もゾーン1のOR遺伝子が発現する以前の胎生11.5日目から発現していることから、嗅上皮の領域特異化、或いは、そこで受容された匂い分子のプロセシングに関与していることが示唆された(Eur. J. Biochem.270,1995,2003)。
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