小脳プルキンエ細胞は、成熟動物においてはほとんどの細胞が一本の登上線維によってのみ支配を受けるが、発達初期には一時的に複数の登上線維による多重支配を受けている。発達に伴い徐々に登上線維の本数が減少し、生後3週目までに1本支配に移行する。 登上線維の発達過程における神経活動の関与について解析するため、神経の電気的活動に重要な電位依存性カルシウムチャネルα1Aサブユニットのノックアウトマウスの解析を行った。生後18-29日において登上線維の多重支配を電気生理学的に解析した。その結果、野生型マウスでは約80%のプルキンエ細胞が一本の登上線維によってのみ支配されていたのに対し、ノックアウトマウスでは80%以上の細胞が2本以上の登上線維によって支配されており、登上線維の除去過程に障害が見られることが分った。また、形態学的な解析により、登上線維の投射様式にも差があることが明らかになった。すなわち、野生型マウスにおいては、プルキンエ細胞の近位樹状突起に投射するのは一本の登上線維に限られるのに対し、ノックアウトマウスにおいては、2本以上の登上線維が一本の近位樹状突起を共投射している像が多数観察された。さらに、プルキンエ細胞へのもう一つの興奮性入力である平行線維と、登上線維の樹状突起上での位置関係を調べた。その結果、本来ならプルキンエ細胞の遠位樹状突起に限局されている平行線維の投射領域が、近位樹状突起や細胞体領域まで拡大しており、逆に登上線維は細胞体方向に投射が縮退していることがわかった。これらの結果は、α1Aサブユニットが、発達期に起こる登上線維-登上線維問、登上線維-平行線維間の相互作用に重要な働きをしていることを示唆している。
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