研究概要 |
以前から、アルツハイマー病治療薬の開発を目指して、βセクレターゼ阻害剤の創製研究を行っている。老人斑の主成分であるアミロイドβペプチドは、βアミロイド前駆体蛋白質(APP)がβおよびγセクレターゼによって切断されて生じる。著者は、βセクレターゼによるAPPの切断部位を基にした基質遷移状態模倣型の阻害剤を合成した。βセクレターゼがアスパルチルプロテアーゼfamilyに属することから、阻害剤のデザインとしては、エイズの臨床で成功を収めた種々のHIV protease阻害剤に導入されている「hydroxyethylamine型ジペプチドイソスター(HDI)」を含む化合物が有用であると考えられた。そこで、自身のペプチド性医薬品の化学合成に関する知識と技術を用い、HDI含有ペプチドミメティックスのコンビナトリアルケミストリー的合成法を確立した。本法を用いて多数の化合物を合成し、強い酵素阻害活性を有する最初のHDI含有βセクレターゼ阻害剤TK-3を創出した。今年度、このTK-3を基にした構造活性相関研究を精力的に行い、医薬品としてのプロフィールが向上するよう低分子化と高活性化を目指した。まず、リード化合物TK-3を基にして、その構成アミノ酸を順次アラニンに置換する、Alaスキャン、および、両末端からのアミノ酸の削除を行い、βセクレターゼ阻害活性の変化を評価し、構造活性相関のデータを蓄積した。結果として、阻害剤中のP_3,P_2',P_4のアミノ酸残基が活性発現に(この順番で)重要であり.阻害剤の大きさとしてP_4-P_2'が必要であることがわかった。これらの情報は、低分子化、高活性化、非ペプチド化、BBBの透過性の上昇、生体内安定化に関する研究を行う上で有用になると考えられる。また、BBB透過性や生体内安定性の向上のための分子変換に役立つジペプチドイソスターの1つとして、(E)-アルケン型ジペプチドイソスターが挙げられるが、本年度SmI_2による一電子還元反応により種々のアルキルアルデヒドユニットを導入する本イソスターの効率的合成法を開発した。
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