研究概要 |
分子動力学計算は,タンパク質の構造と機能の解析及び予測のための手法として期待されているが,その膨大な計算量が実用化の障害となっている。特に,二体相互作用求値の計算量が問題となる。本研究の目的は,分子動力学計算のための強大な専用計算資源を有するサイトを構築し,その計算パワーを遠隔地の科学者に提供するような計算グリッドのプロトタイプを制作することである。これまでに制作してきた二体相互作用計算プログラムなどをもとにして,本年度は,分子動力学計算専用のサーバ/クライアント型広域分散計算システムを開発した。具体的には,相互作用提供型と単一MD提供型の二つのシステムを開発した。相互作用提供型は,Ninf-GのGridRPC機構を利用して,原子座標などを受け取り,力などの計算結果を戻すという形式のものである。原子数約5万の分子系での性能検証結果によると,1ステップの実行に平均7.1秒を要した。このうち4.5秒が通信に費やされており,計算パワーの伝達において,ある程度のロスがみられた。ただし,将来的には,より高い通信帯域をクライアント/サーバ間に確保できることが見込めるため(この実験では実効6.5Mbps),このようなオーバーヘッドは大幅に減弱する可能性が高い。一方,単一MD提供型システムは,1個の分子動力学(molecular dynamics)ジョブ全体を実行し,その結果を返送するものである。このシステムは,Globus Toolkitの各種バンドルのAPIを用いて実装した。特に,今年度は,通信と計算のオーバーラップによる効率化を重点的に行った。前述の分子系の1ステップの実行は平均1.6秒で完了し,オーバーヘッドは3%程度であった。また,通信と計算のオーバーラップにより,低めに見積もっても,トラジェクトリ転送時間の81%以上を隠蔽することができた。
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