免疫応答は、生体における必須の防御機構であるが、一方感染に伴いしばしば自己に対する有害な免疫応答が惹起されることが知られている。これは、リンパ球が標的組織に浸潤し、組織由来の抗原を認識することにより惹起される。リンパ球遊走にも抗原認識にも細胞骨格の再構築が必須であるが、その制御機構の分子レベルでの理解はなされていない。我々は、線虫のCED-5、ショウジョウバエのMyoblast Cityの哺乳類ホモログであり、且つリンパ球特異的に発現する分子DOCK2を単離し、ノックアウトマウスを作製することで、これまでにこの分子がRac活性化を介してリンパ球遊走を制御していることを明らかにしている。本年度も引き続きDOCK2の機能とシグナル伝達の解析を行い以下の成果を得た。 1)DOCK2がT細胞抗原受容体の下流で機能し、免疫シナプス形成を介してT細胞の分化、成熟、増殖応答を制御することを明らかにした。 2)DOCK2欠損がマウスモデルにおいて自己免疫発症を完全に抑制すると共に、アロ移植片の長期生着を可能にすることを明らかにした。 3)DOCK2がCED-12の哺乳類ホモログであるELMO1とSH3ドメインを介して会合することを示すと共に、DOCK2-ELMO1相互作用がDOCK2によるRac活性化に必須であることを明らかにした。 このようにDOCK2は細胞骨格の再構築を介してさまざまなリンパ球細胞高次機能を制御する重要な分子であり、それ故、宿主応答を人為的に制御する上でDOCK2並びにそのシグナル伝達分子は格好の標的になると考えられる。
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