研究概要 |
近年、多発性骨髄腫の発症に関わると考えられる染色体転座(c-maf,mafB,cyclinD,FGF-receptor 3など)が次々と同定されつつある。しかしながら、その他の種類の血液腫瘍と比べて多発性骨髄腫においては、転座が起こった結果、どのような細胞内の変化がもたらされるのかについての知見がほとんどないのが現状である。本研究では、特に高い頻度で染色体転座が見い出されるc-maf遺伝子産物に的を絞って解析を行った。 c-MafはAP-1(Fos/Jun)系のbasic-leucine zipper型転写活性化因子に属するが、そのDNA結合の特異性、細胞外刺激に対する応答など、独特の性質を数多く持っていることをこれまでにあきらかにしてきた。そこで多発性骨髄腫におけるMafの標的遺伝子を検索したところ、interleukin-6遺伝子promoter上にMafの結合配列MAREを見いだした。また、luciferase assayを用いて、interleukin-6 promoterがMARE依存的にMafにより強く活性化されることをあきらかにした。interleukin-6はMafの直接の標的遺伝子であり、多発性骨髄腫のautocrine増殖因子として働いている可能性が示唆された。 実際にc-maf locusに転座を持つ多発性骨髄腫細胞株において、c-Mafタンパク質が過剰に発現していることは確認できたが、多発性骨髄腫細胞株は培養が比較的困難で、生化学的な解析を行うために安定した状態で大量に供給することが難しいことも判明した。これを克服するため、膵臓由来のインスリン産生腫瘍細胞株やグルカゴン産生腫瘍細胞株がMafタンパク質を比較的高いレベルで発現していることがわかったので、今後は、これらをモデル系として用い、得られた結果を逐次、多発性骨髄腫細胞株へフィードバックして確認してゆくという方策をとる計画である。
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