研究概要 |
セリンスレオニンリン酸化酵素AKTは細胞死を抑制する中心的な役割を担う細胞内シグナル分子である。多くの癌細胞では、AKTが活性化され、アポトーシスが障害される。この結果、細胞死が減少し、細胞が異常に増殖し、癌の発症の原因となる。 我々はこのAKTの活性化の機序を知る目的でAKTに結合する分子を検索し、AKTに特異的に結合する新しい細胞内分子ATOMを同定した。ATOMにはAKTの基質としての特異的燐酸化配列{RXRXX(S/T)}が存在する。さらに不均衡な濃度のDNA塩基を用いたPCR法によりこれらの分子のRandom Mutation Libraryを作製し、酵母細胞を用いたスクリーニング法と免疫沈降法、Pull Down Assayを併用しAKT結合に必須なアミノ酸部位を決定した。これらの方法により同定したAKT結合部位近傍のアミノ酸配列より、AKTに結合する標的ペプチドを作成した。これらの標的ペプチドを4種類のセリンスレオニンキナーゼProtein Kinase A、Akt (Protein Kinase B、AKTの別称)、PKC (Protein Kinase C)、PDK (Phosphoinositide Dependent Protein Kinase 1)を用いたin vitro Kinase Assayにより燐酸化に与える影響をスクリーニングした。その結果、この中のひとつのペプチドはこれらのセリ/スレオニンキナーゼに結合し、その活性を抑制することを確認した(特許出願中、論文投稿中2004)。現在これらのペプチドのアミノ酸置換、修飾、などによるSensitivity、Specificityの改善、その分子学的な作用機序、抗腫瘍効果に関して基礎的な研究を進めている。 このペプチドはAKTのPleckstrin Homology Domainに結合する。このペプチドとAKTとの結合の構造的な詳細を調べる目的で、NMRを用い、Aktの構造解析を行い報告した(Auguin et al., J.Biomol.NMR 27, 287-288, 2003 ; Auguin et al, J.Bomol.NMR 28, 137-155, 2004)。 これまでAKTに結合するアミノ酸配列をモデルにしたAKT活性阻害剤開発はなされていない。本成果は、アポトーシス制御など癌の基礎研究のみならず、癌抑制遺伝子の異常によるAKTの活性化が背景となっているヒト悪性腫瘍や糖尿病などの治療薬開発につながることが期待される。
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