研究概要 |
研究目的:VII型コラーゲンの変異により発症する栄養障害型表皮水疱症では,若くは10歳頃から扁平上皮癌を発症し,栄養障害型表皮水疱症の主な死因となるが,なぜ若年者栄養障害型表皮水疱症に浸潤,転移能の高い扁平上皮癌が好発するかの機序は明らかにされていない。VII型コラーゲン遺伝子(COL7A1)の変異が扁平上皮癌の発症,浸潤,転移にどのように関わるかを明らかにすることが本研究の目的である。 研究実施計画と結果:栄養障害型表皮水疱症を若年から多数の扁平上皮癌を発症した症例群および扁平上皮癌発症が少ない群にわけ,蛍光抗体によるVII型コラーゲン他,表皮基底膜部接着分子発現量の比較を行った。その結果,栄養障害型表皮水疱症患者から発症した扁平上皮癌では,IV型コラーゲンの発現が著しく減少していた。一方VII型コラーゲンの発現は,扁平上皮癌を発症していない組織とほぼ同じ程度であった。また,検索した他の基底膜部接着分子の発現に明らかな差は認められなかった。栄養障害型表皮水疱症にともなう扁平上皮癌が,水疱発症後に生じる皮膚潰瘍におこりやすいことから,COL7A1遺伝子の潰瘍辺縁における動態を調べた。その結果,VII型コラーゲン遺伝子にアミノ酸が9個挿入される,alternative splicingがみられることがわかった。また,alternative splicingは正常組織と比較して潰瘍組織で有意に増強することがさらなる解析であきらかとなったことから,潰瘍治癒過程においてVII型コラーゲンのalternative splicingが関わる可能性があり,栄養障害性表皮水疱症の扁平上皮癌発生においても潰瘍周辺組織でのVII型コラーゲンのalternative splicingの増強が深く関わっている可能性が示唆された。
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