研究概要 |
本年は、まずv-Srcによるヒアルロン酸合成活性化機構について検討を行った。3種類のヒアルロン酸合成酵素HAS1,HAS2,HAS3の、v-Src癌化細胞における発現を解析した結果、v-Src癌化細胞では主にHAS1及びHAS2の合成が亢進している事を見いだした。そこで、ドミナントネガティブ効果を持つS17NRasやRasシグナルを抑制できるGap1mを発現し,その影響を見た結果,はS17NRasやGap1mはヒアルロン酸合成を強く抑制する事が明らかになった。次に,Rasとは独立したシグナル伝達系で、v-Src癌化細胞の癌化に必須のシグナル伝達系であるStat3の作用を調べた。Stat3の705位のチロシンをフェニルアラニンに置換したドミナントネガティブ型Stat3(Y705FStat3)遺伝子を,v-Src癌化細胞に導入し、その影響を見た結果,明らかにヒアルロン酸合成の抑制を認めた。Y705FStat3の発現に伴って、HAS1およびHAS2の転写が明らかに抑制される事を確認した。更にこの結果を確認する為に、Stat3に対するsiRNAを設計し,その作用を見た結果、Y705FStat3と同様に明らかなヒアルロン酸合成の抑制を認めた。この時,細胞蛋白質のリン酸化や,v-Srcの発現には何らの影響もない事を確認した。以上の結果は、v-Src癌化細胞におけるヒアルロン酸合成が、Ras/MAPKシグナルとStat3シグナルの2種類のシグナル伝達系によって劇的な活性化を受けている事を示す。以上の結果を受け、ひと肺癌組織におけるSTAT3シグナル伝達系の活性動態を調べた。その結果、多くの症例で癌組織特異的にSTAT3のリン酸化が高頻度に亢進している事を見いだした。この結果は、肺癌の発生過程においてSTAT3シグナルが何らかの機能を担う事を示唆していると言える。
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