研究概要 |
細胞は内的・外的要因によりDNA損傷を受けると、細胞周期チェックポイント機構を作動させ、一時的に細胞周期を停止させ、損傷修復を行うかアポトーシスを誘導することにより、生体におけるゲノムの恒常性を維持している。DNA損傷後、まず(がん抑制遺伝子産物である)ATM, ATRキナーゼがリン酸化・活性化され、これらのキナーゼが(同じくがん抑制遺伝子産物であり)チェックポイントキナーゼであるChk1,Chk2キナーゼをリン酸化・活性化し、引き続きChk1,Chk2キナーゼがp53、Cdc25などの一連のエフェクター分子をリン酸化・活性制御することによりチェックポイント機構を作動させ、一時的な細胞周期停止を誘導することが知られている。しかしながら、DNA損傷修復後、細胞周期を再開させる"チェックポイントの解除機構"については不明であった。本研究により、DNA損傷後にp53依存的に発現誘導される(がん遺伝子産物である)Wip1ホスファターゼが、ATM, Chk1,Chk2キナーゼの活性化に必須のリン酸化部位(ATM : Ser-1981,Chk1:Ser-317,345,Chk2:Thr-68)を特異的に脱リン酸化し、不活化することによりチェックポイント機構を解除することが明らかとなった。また、Wip1ホスファターゼは、直後にグルタミンが続くリン酸化セリンまたはリン酸化スレオニンを選択的に脱リン酸化することが示された。さらに、放射線によるDNA損傷時において、Chk2はアポトーシス誘導に、またWip1はアポトーシス阻害に働き、両分子が拮抗的に作用することが見出された。
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