研究概要 |
8-oxo-dGTPや2-OH-dATP)などの酸化プリンヌクレオシド三リン酸分解活性を有するMTH1の細胞保護効果について解析した.MTH1欠損マウス由来胎児線維芽細胞(MEF)株を樹立し,H_2O_2負荷後の変化を解析したところ,MTH1欠損MEFは,核の強い凝集(ピクノーシス)とミトコンドリア内への電子密度の高い異常な構造体の蓄積を特徴とする形態変化を伴って,H_2O_2に対して高い感受性で細胞機能障害および細胞死に陥った.この細胞死はポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼおよびカスパーゼに非依存性であった.HPLC-MS/MSおよび蛍光免疫染色による解析から,MTH1欠損MEFではH_2O_2負荷により核およびミトコンドリアDNAへ8-oxoGが継続的に蓄積することが明らかになった.H_2O_2によりMTH1欠損MEFに観察されたこれら総ての変化は,ヒトMTH1(hMTH1)を発現させることにより効率よく抑制された.一方,8-oxo-dGTP分解活性あるいは2-OH-dATP分解活性を選択的に喪失したhMTH1(W117Y, D119A)変異体蛋白質の発現では,いずれも野生型hMTH1に比較して低いレベルではあるが,これらH_2O_2による変化が抑制された.以上の結果より,hMTH1は8-oxo-dGTPや2-OH-dATPを含む酸化プリンヌクレオチドを分解することで,細胞をH_2O_2による機能障害や細胞死から保護する機能を有し,その保護効果の一部はミトコンドリア機能障害の抑制に起因することが示唆された。ヒト腫瘍組織においては悪性度の高いがん組織ほど8-oxoGなどの酸化塩基の蓄積が亢進し,さらにMTH1の発現が著しく亢進している。がん細胞は常に亢進した酸化ストレスに曝されゲノムの酸化等の障害を被っているが,悪性度の高いがんではMTH1の発現亢進により細胞死を誘発する酸化ヌクレオチドを分解,排除することにより,生存し増殖を維持していることが示された.さらに,MTH1の発現抑制を目的としてsiRNAおよびその発現ベクターを構築し,ヒト癌細胞で効率良くMTH1の発現を抑制する系を確立した。
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