網羅的な分析手法を利用して、がんの診療に役立つ低分子量蛋白質・ペプチド性腫瘍マーカーを血液から同定可能であれば非常に有望であるが、実際は方法論が確立されていない。本研究では、その前段階として、血液からのペプチド検出法の確立を目標とした。血液からのペプチド成分の抽出は、種々の生化学的方法を用い、検出はマトリックス支援レーザー脱離型およびエレクトロスプレー型の2種類のイオン化法による質量分析によった。本年度は以下の点を明らかにした。1)臨床で一般に採取されている血清は、探索材料としては不適当である。理由として、採血後に活性化されているプロテアーゼの影響を抑止できないこと、および凝固過程で多量のフィブリノペプチドが生成することがあげられる。2)血漿はプロテアーゼ阻害剤・抗凝固剤添加条件で一定の条件で採取された検体が使用可能である。3)2)で通常の採血レベルで空腹時に採取された新鮮血漿から再現性よくペプチドを質量分析で検出可能とする方法を確立した。4)血漿1mLから同定されるペプチドは、存在量の多い血漿蛋白質由来の断片ペプチドであった。これらの血中濃度は数nmol/mlに達している。5)抗凝固剤の存在下でも採血時の侵襲で活性化したと考えられるフィブリノペプチドの生成が明瞭に観察された。なお、疾患特有の存在を示す蛋白質・ペプチドの存在量は10fmol-1pmol/mlのオーダーであり、現在の質量分析の感度を考慮すると、数百mlの血漿から探索することが妥当であると見積もられた。
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