研究概要 |
葉酸は、代謝の過程でDNAの合成とメチル化に関与し、食餌性の低摂取ががんリスクの増大に関与すると考えられている。葉酸摂取とがん罹患リスクとの関連について、日本人を対象とした研究は行われていない。本研究では、宮城県の地域住民39,152人(男性14,383人、女性24,769人)を対象に1990年に開始した大規模コーホートを用いて、葉酸摂取と大腸がん及び乳がん罹患リスクの関連を検討した。葉酸摂取量は、再現性と妥当性を確認した40項目の食物摂取頻度調査票の回答から計算した。宮城県地域がん登録との記録照合による追跡調査を7年間行い、大腸がん247例(結腸145例、直腸92例)と女性乳がん115例の新規罹患を確認した。解析の結果、現在飲酒者では、葉酸の高摂取により、有意差のない結腸がんと乳がんのリスク低下傾向を認めた。すなわち、葉酸摂取の最小四分位群に対する、第2、第3、最大四分位群の、結腸がんに関する多変量補正相対危険度(95%信頼区間)は、それぞれ0.71(0.42-1.19)、0.58(0.32-1.44)、0.65(0.37-1.14)だった(Trend P=0.12)。乳がんに関する同様の多変量補正相対危険度(95%信頼区間)は、それぞれ1.09(0.45-2.64)、0.49(0.16-1.49)、0.51(0.17-1.55)だった(Trend P=0.07)。これに対して、現在非飲酒者では、結腸がんと乳がんのリスク低下はなかった。また、直腸がんについては、現在飲酒者でも非飲酒者でも、リスクの低下を認めなかった。現在飲酒者における、葉酸の高摂取による結腸がんと乳がんのリスク低下傾向は、欧米の人口集団における先行研究の結果と、おおむね一致していた。葉酸の高摂取により、日本人の飲酒者における結腸がんと乳がんを予防し得る可能性が示唆された。
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