研究概要 |
細胞癌化とその抑制における転写因子の役割の解明に,血球系転写因子と白血病をモデル系として選択して取り組んだ.転写因子GATA-1による細胞増殖抑制・分化誘導・細胞死抑制の3つの作用は,赤血球前駆細胞から成熟赤血球への分化に必須の貢献を行っている.私たちは,胚幹細胞の解析から,GATA-1発現が野生型の5%レベルに低下した際には,赤血球系への分化誘導能や細胞増殖抑制能は不十分であったが,細胞死抑制能については,同レベルのGATA-1発現で十分であることを見出した.さらに,GATA-1発現を野生型の5%にまで減弱させたノックダウンヘテロマウスは2種類の白血病を発症すること,しかし,GATA-1完全欠失ヘテロマウスはそのような白血病を発症しないことを見出した.GATA-1はX染色体上に位置するため、X染色体の不活化により,GATA-1ノックダウンヘテロマウスには変異アリルが活性化した赤血球前駆細胞と野生型アリルが活性化した赤血球前駆細胞の2種類が存在するが,同マウスでは,前者が分化も細胞死もできないまま増殖蓄積し,高率に白血病を発症する母地となっている.さらに,ダウン症候群患児に好発する巨核芽球性白血病にはN末端領域を欠失したGATA-1がほぼ全例で発現しているが,同白血病を発症した患児より樹立した細胞株に,野生型GATA-1を遺伝子導入すると赤血球系細胞に分化する.一方,N末端領域欠失変異GATA-1(ΔNT-GATA-1)を導入しても同細胞は分化しなかった.すなわち,変異GATA-1の赤血球形質への分化誘導機能の欠失が白血病発症の病因の一つであることが強く示唆される.
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