研究概要 |
本年度は主として種々の有機分子を標的とする衝突実験を行い、解離断片の位置有感飛行時間測定から速度ベクトルの相関を求めた。まず、平面分子(エチレン、ベンゼン、およびそれらの重水素置換体)と非平面分子(エタン)を標的とする低速多価イオン衝突実験を行い、生成した解離断片の角相関を比較した。平面分子においては3つのベクトルは同一平面上に存在する傾向が強いが、非平面分子(エタン)ではこのような傾向は見出されなかった。この結果は、ベンゼンのような多原子分子でも、依然クーロン解離が優勢であることを示している。ベンゼンについてはC^+-C^<2+>角相関がシミュレーションとよく一致することも示した。この実験ではオージェ電子を飛行時間測定のトリガーとしていたため、非常に高価数の親イオンからの解離を観測していた。一方入射イオン検出をトリガーとしたAr^<8+>とベンゼン-d6の衝突実験では比較的低価数の多価分子イオンが生成し、そこでいくつかの選択的解離チャネルを見出した。 さらにo-,m-,p-ジフロロベンゼンを標的として多価イオン衝突実験を行い、二つのF原子イオンの角度相関を調べたところ、元の分子構造を反映する強い相関が得られた。この結果、かなり複雑な有機分子においても、多価イオン衝突実験による分子構造の識別が可能であるということかわかった。以上の結果は2報の論文として発表し、さらに1報が投稿中である。 この他、分子線と多価イオンの交差ビーム型クーロン爆発実験装置を製作し、2量体と多価イオンの衝突実験を開始した。また新しい位置有感飛行時間計側システムを開発した。
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