研究概要 |
多座配位子の一部が非配位のまま残っている錯体は、錯体の動的な性質を知るために重要な役割を果たす。このような不完全配位の配位子を持つ錯体をここでは「配位基過剰型錯体」と呼ぶことにする。この種の錯体は反応中間体的な性質が強いので、これを系統的に合成することは簡単ではない。本研究では、いくつかの類例の研究を通して配位基過剰型錯体の合成とその役割について研究した。(1)Rh複核ユニットへの多座配位子の段階的配位。Rh(II)複核ユニットが置換不活性なことを利用し、Rh_2(CH_3COO)_4への、2座配位子2-pyridyl-methylamine、および3座配位子bis(2-pyridylmethyl)amine、のキレート配位の過程を、単座配位からキレート配位に至る一連の錯体の単離、構造決定、反応性の研究を通して明らかにした。Rh-Rh結合の向かい側の配位座への速やかな単座配位とこれに続く遅い架橋酢酸イオンの追い出しによるキレート配位の過程が明らかとなった。(2)3座配位の6配位子を持つ錯体を用いた混合金属錯体の合成。我々は配位基過剰型錯体の合成研究の過程で、6座配位子、N,N,N',N'-tetrakis(2-pyridylmethyl)ethylenediamine (tpen)が、半分の3座でRe(VII)に配位した錯体、[Re(O)_3(tpenH)]^+、の合成に成功した。この典型的な配位基過剰型錯体の空位の3つの配位座と他の金属錯体ユニットとの反応を試み、いくつかのユニークな錯体の合成に成功した。3つの配位座は巨大な置換基を持つbis(2-pyridylemtyl)amine誘導体と見なせる。この配位部位を生体内にも見られるFe_2(μ-O)(μ-CH_3COO)_2ユニットに2ヶ結合させた錯体の合成とそのX線構造解析に成功した。(3)固体基板上での配位基過剰型錯体に反応。我々はこれまでに、Ru3核錯体を金基板上にAu-S結合を介して固定化し、自己集積化膜を構築することに成功した。このRu3核ユニットの一つのRuに反応活性はサイトを導入することにも成功しているので、このサイトに配位基過剰型錯体を結合させることにより、固体上に積層膜を構築することが出来る。この方法、Ru3核錯体ユニットを5層連結させることに成功したほか、新たにRe6核ユニットの連結にも成功した。
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