研究概要 |
リンを含む多重結合の化合物は、その多重結合の原子間距離が長く、また、π軌道の広がりが大きいため、いわゆるπ軌道の有効な重なりがあまり期待できない。さらに、重周期型元素は混成軌道を形成しにくいことなどから、従来、このような多重結合化合物は不安定であるとされてきた。しかし、近年、分子内にかさ高い置換基を組み込むことにより、いわゆる不安定化学種を安定化できることが明らかになった。そこで、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニルの立体保護効果を利用して安定化した含リンの遷移金属錯体の配位子の合成を検討した。まず、2-メチル-3,3-ジフェニル-1-(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)-1,3-ジホスファプロペン3-スルフィドを合成した。そのタングステン、パラジウム、白金錯体を合成単離し、構造解析を行った。さらに、2-メチル-3-スルフィド誘導体を配位子とするジクロロパラジウム錯体は、いくつかの有機合成反応の触媒として有効であることがわかった。まず、フェニルアセチレンとヨードベンゼンとの菌頭カップリング反応が、室温で、ほぼ定量的に進行した。また同じく、ヨードベンゼンとフェニルボロン酸との鈴木カップリング反応もよい収率で進行した。アニリンのアリルアルコールによる直接アリル化反応もこの2座配位子をもつパラジウム触媒で進行することがわかり、P,S-2座配位子を有する遷移金属錯体が、いくつかのクロスカップリング反応の触媒として有効であることが見いだされた。
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