研究概要 |
本研究は,金属多核骨格を有するナノクラスター分子の合成を基盤として,それらの動的挙動に基づく新規機能及び反応性の開発を目的とする。 (1)直鎖状六核クラスターの酸化還元に伴う動的骨格変化の解明 直鎖状金属六核クラスター[Pt_4M_2(μ-dpmp)_4(XylNC)_2]^<3+>(M=Pt, Pd)を合成し,さらに,それらが1電子の酸化及び還元を受け,[Pt_4M_2(μ-dpmp)_4(XylNC)_2]^<4+>及び[Pt_4M_2(μ-dpmp)_4(XylNC)_2]^<2+>に変換されることを明らかにした。この過程で起こる,金属結合距離のダイナミックな伸縮についてX線結晶構造解析及び種々の分光分析によりその詳細を解明した結果,酸化に伴いクラスター骨格は保持されているが,金属六核鎖の末端部から中央部への金属結合電子の流入が生じ,金属-金属結合距離のダイナミックな変化が起こることが明らかとなった。この際生じるクラスター骨格内での電子の流動について,DFT法を用いた分子軌道計算によりその要因を解明を行っている。 (2)直鎖状六核クラスター用いた流動的反応場の設計 金属六核プラットホームにおける複合的有機小分子の活性化を目的に,低原子価ヒドリドクラスターの合成を行った。白金三核錯体(1)をDMF中Pt(0)種存在下NaBH_4で還元することにより,[Pt_6(μ-H)(μ-dpmp)_4(H)_2](PF_6)の組成を有するトリスヒドリドクラスター(2)を合成し,さらに,クラスター(2)からプロトンが脱離した構造を持つ中性クラスター[Pt_6(μ-H)_2(μ-dpmp)_4](3)を単離しその構造解析に成功した。クラスター(2,3)は非常に反応活性であるだけでなく,特にクラスター(3)は0価白金原子が鎖状に連結した低原子価構造をとるため金属のモデルとなる分子細線として重要な化合物である。 (3)PNNP多座配位子を用いた三核錯体の開発 PNNP型配位子dpnapyを用いることにより,電子豊富なPt(0)中心を2個有する錯体[Pt_2Na(dpnapy)_3(XylNC)_2]^+を合成した。この錯体は段階的にヒドリドを取り込み,[Pt_2Na(H)(dpnapy)_3(XylNC)_2]^<2+>及び[Pt_2Na(H)_2(dpnapy)_3(XylNC)_2]^<3+>へと変換される。これらの錯体について詳細な構造決定を行うと同時に,種々の分光分析及び電気化学特性について検討を行った結果,特に,約8Å離れた2個のPt中心間に存在する非常に微細な構造変化による長距離情報伝達が明らかとなり,(0,1,2)型分子メモリーとしての可能性が示唆しされた。
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