研究概要 |
(C_5R_5)(CO)_3MoMe(R=Me, H)とBH_3・P(NMeCH_2)_2(OMe)を含むヘキサン溶液に光照射を行うと、ホスファイトボリル錯体,(C_5R_5)(CO)_3MoBH_2・P(NMeCH_2)_2(OMe)が生成することを見いだした。Cp環上のMe基の数が多い程、ホスファイトボリル錯体の収率は向上し、安定性も増加した。X線結晶構造解析の結果、Mo-B結合距離はこれまでに報告されている遷移金属ボリル錯体(L_nM-BR_2)のM-B結合と比較して長くなっていることが分かった。これはホスファイトボリル錯体ではホウ素にリン化合物が配位しているため、金属からホウ素へのπ-back donationが減少したためと考えられる。 Cp^*CO)_3MoMeとの反応を^1H NMRで追跡したところ、Mo-H-B 3中心2電子結合をもつ錯体およびCp^*(CO)_3MoHの生成が確認された。そこで、反応機構を次のように考えた。まず出発錯体であるメチル錯体に光照射を行うと、1つのカルボニル配位子が脱離し、16電子錯体が生成する。それにホスファイトボランのB-H結合が配位し、その後このB-H結合がMoに酸化的付加し、さらにMe基とH基が還元的脱離してホスファイトボリル錯体が生成し、またMe基とBH_2・P(NMeCH_2)_2(OMe)基が還元的脱離するとヒドリド錆体が生成する。MeとHの還元的脱離の方が起こりやすいので、ホスファイトボリル錯体が主生成物となったものと思われる。 Cp^*(CO)_3MoMeとBH_3・P(NMeCH_2)_2Hとの反応では、少量のCp^*(CO)_3MoBH_2・P(NMeCH_2)_2Hに加えて、ホスフィドボラン錯体Cp^*(CO)_3MoP(NMeCH_2)_2BH_3、およびホスフィド錯体Cp^*(CO)_3MoP(NMeCH_2)_2が生成することが分かった。これより、B-H結合よりもP-H結合の方が反応性が高いことが示唆された。
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