研究概要 |
本研究ではシアナミド架橋多核構造の多様性を追究して混合金属錯体を含む多核構造の自在な構築のための手法を確立し,さらにはシアナミドの架橋配位能を活用して多核錯体を構造ユニットとして集積させた「クラスターオブクラスター」へと展開することを目的として以下検討を行った.まず[Cp^*IrCl_2]_2と2倍モルのNa_2(NCN)とを乾燥メタノール中室温で反応させたところ,シアナミド架橋二核錯体[Cp^*Ir(μ_2-NCN)]_2(1)が濃赤色結晶として収率47%で得られた.錯体1は,架橋N原子がsp^3混成による非平面構造を取って孤立電子対を持つ一方,二核コアの電子数(32e)からは潜在的に配位不飽和であると考えられる興味深い錯体である.実際に1はその構造的特徴に基づくさまざまな反応性を示し,エロンゲーテッドキュバン型錯体やキュバン型錯体への二量化,ホスフィンの配位,COの挿入によるシアノゲンイソシアナート錯体の生成,異種金属フラグメントの取り込みによる混合金属三核錯体の生成などの特徴ある変換が起こることを見出した.また、キュバン型錯体への二量化については速度論的解析を行い,これが二次反応であること,キュバン錯体に近い会合状態が遷移状態であることなどを明らかにした。 一方,[Cp^*RuCl]_4とNa_2(NCN)をメタノール中で反応させることにより空気に不安定なNa[(Cp^*Ru)_3(μ_3-NCN)_2](2)暗赤色の結晶性固体として得た.2はアニオン性錯体であることから,種々の求電子剤と反応することが期待される.実際に,HClとの反応ではプロトンが1つのRu-Ru結合に付加したヒドリド架橋錯体,[AuCl(PPh_3)]との反応からは一方のNCN配位子の末端窒素原子に{Au(PPh_3)}^+が結合した四核錯体が生成した.この結果は2の三核コアを金属イオンで連結した「クラスターオブクラスター」合成につながるものである。
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