研究概要 |
光電離ガスの放射特性・熱力学的特性など基礎的な物理過程の研究をもとに,ブラックホールの重力の下での降着ディスク大気の安定性を調べ,その一部は,やや低温で密度の高い対流不安定の領域になることを明らかにしてきた.また,このようなディスク大気のベースである,光学的に厚く幾何学的に薄い降着ディスクについても,線形解析によっての安定性を調べ,磁場のある場合に不安定性が抑制される効果について明らかにした.一部の研究は大学院生の研究テーマとして進め,修士論文にまとめた. ディスク降着連星系から見つかっている鉄の吸収線は,光電離された降着ガスの不安定領域に関係していると考え,吸収スペクトルからガス密度・輻射フラックスなどを定量的に評価するための基礎を確立することを目的として,原子準位とカップルしたnon-LTE輻射輪送の研究を進めた.線スペクトルに直接関わる準位をカップリングさせたいわゆる2-level atomをベースに,高い準位やcontinuum levelとの直接約カップリングを効果的に取り入れ,輻射輸送モデルを発展させた.これらの結果は,研究会などで発表した他,学会誌・学術専門誌に発表した. 鉄の吸収線が検出された全ての連星系で,ガスのアウトフローを示すP-Cygniプロファィルが観測されているわけではない.そこで,ディスクおよびディスク大気の不安定性が,アウトフローに発展する条件を探ることを目的として,ChandraおよびXMM-Newton衛星に搭載のグレーティングによって得られている高分解能スペクトルの分析・比較を行った.個々の対象について高分解能スペクトルが報告されていても系統的な解析が行われているわけではなく,また,中には適切とは言えない解析が行われている例もあるので,注意深く関係する物理過程の絞り込みを進めている.
|