研究概要 |
安達太良火山の1900年7月17日噴火では80名余の犠牲者がでた。活動最後の爆発に伴って疾風が西麓の硫黄川沿いに流走し,多くの犠牲者がでた。この噴火のこれまでの研究は直後の調査報告のみであった。今回の野外調査の結果,マグマ性本質物質は含まれず,遺物にも焼け跡などがないことから,この噴火は水蒸気爆発型活動と推定される。噴出物は,弾道軌道で放出された岩塊など,噴煙柱由来の火山灰や礫,および疾風による堆積物であった。硫黄川沿いの10地点で細粒部のやや欠落した無層理の砂質物が確認された。その層厚は4〜10cmで,火口からの距離と層厚には明瞭な関係は認められない。火口内では火山灰薄層を含む3セットの堆積物が確認され,最上位が最も層厚があって,住居屋根など構造物や茶碗片などの生活品遺物を含む。これらのことから,火口内の最上位堆積物が硫黄川の薄層堆積物に対比され,疾風に係わる堆積物と推定された。その粒度組成(Md_φ-σ_φ)を他の火山のサージ性堆積物と比較すると,セント・ヘレンズ火山1980年のマグマ性噴火や磐梯火山1888年の水蒸気爆発性噴火のサージ堆積物と同様の特徴をもつが,安達太良火山ではσ_φがやや高めであった。安達太良火山の1900年爆発性噴火では,噴煙柱上昇に伴ってベースサージが発生し,堆積物の分布は12〜14万m^2,堆積は5千〜1.4万m^3と見積もられた。この規模はこれまで報告された爆発性噴火でのサージ堆積物よりかなり小さい。 磐梯山1888年噴火によるサージ堆積物については,既に申請者などによって報告されてきたが,最近発見された宮内庁書陵部や国立科学博物館の所蔵写真を検討した。その結果,サージの影響を受けた樹木や家屋が写されていることが確認された。これらの映像から,磐梯山1888年噴火のサージの影響域やメカニズムなどのより具体的かつ詳細な考察が可能であることがわかった。
|