研究概要 |
細胞外マトリックス分子の糖鎖が分子の活性を調節して組織修復に与える影響を、フィブロネクチンに続いて、プラスミン生成を抑制するPAI-1の生体内唯一の安定化因子として知られているビトロネクチン(VN)を対象に、肝再生過程における組織溶解系因子との相互作用の変化に注目して解析した。 70%肝切除(H)ラットに対し、非手術(NO)ラット、および偽手術(S)ラットを作成し、糖鎖およびタンパク質部分の構造変化と活性の変化を測定した。PAI-1との結合活性は、NO-VNと比較してSでは約2/3、Hでは約1/3に各々減少した。一方、シアリダーゼ処理、N-グリカナーゼ処理VNのPAHI-1結合活性はいずれも約2倍に増強し、H-VNのシアル酸を含む糖鎖減少と相関する活性変化ではなかった。糖鎖の内部構造の影響を調べるため、NO-,S-,H-VNの糖鎖の逐次消化を行い、PAI-1結合活性を比較したところ、NO-VNはいずれも段階でも未処理の場合より結合活性が増強したのに対して、S-,H-VNは糖鎖の除去が進むにつれて結合活性が減少する傾向を示した。プラスミン生成を促進するウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)とVN脳との結合活性は、NO-VNと比較してS,Hで約2倍に増強し、酵素による脱グリコシル化処理でもわずかな増強が確認された。これらの結合活性変化がプラスミン産生に及ぼす影響を調べるため、糖鎖変化VNとPAI-1共存下でのuPA有効活性を測定したところ、NO<S<Hの傾向が観察され、PH-VNのPAI-1結合活性の減衰およびuPA結合活性の増強と相関した。これらの結果から、S-,H-VN存在下におけるプラスミン産生の増加とそれに続く組織溶解の促進が推測された。各血漿のプラスミン活性は、大部分のVNが血中で不活性であるため、S, Hのいずれも、活性がNOより低下しており、リガンド結合によるVNの活性化によって、プラスミン活性が著しく増強されることが示唆された。
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