研究課題
特定領域研究
哺乳動物には通常の白色脂肪とは別に褐色脂肪組織(BAT)があり、ミトコンドリアにある脱共役蛋白質(UCP1)の働きによって熱を産生している。本研究では、BATについて、特に交感神経の調節作用と脂肪・糖代謝、肥満との関係に焦点を当ててマウスやイヌ、ヒトで検討した。1、β3アドレナリン受容体(AR)は脂肪細胞に局在している。正常マウスにβ3AR作動薬を投与すると、摂食量は変わらないが、BAT熱産生亢進、白色脂肪からの脂肪動員、エネルギー(酸素)消費亢進が起こり、最終的には白色脂肪細胞サイズが小さくなり体脂肪が減少した。しかし、これらの効果はUCP1欠損マウスでは見られなかった。2、同様のβ3AR作動薬の抗肥満効果がイヌでも見られることを、CTによる体脂肪量評価や血中アディポサイトカイン動態、UCP1発現などから証明した。3、主な生理的摂食抑制因子であるレプチンのエネルギー消費に対する作用についても、アデノウィルス発現法などを用いて検討した所、レプチンが白色脂肪UCP1を誘導してエネルギー消費を増やし、体脂肪減少に寄与することを見出した。これらの結果から、UCP1によるBAT熱産生がエネルギー出納の調節に重要であり、この障害が肥満の一因になると結論した。4、寒冷暴露やβAR刺激によるBAT熱産生時にはこの組織で糖代謝も亢進する。その機構をUCP1欠損マウスを用いて検討した所、βAR刺激→UCP1活性化→細胞内AMP増加→AMPキナーゼ活性化→グルコース取込み増加という一連の反応によることが明らかとなった。この糖代謝亢進を指標として、ヒトBATをpositron emission tomographyで評価し、寒冷刺激による活性化などを発見した。この結果は、「ヒト成人にはBATは無い」との従来の定説を覆すものであり、ヒトでのエネルギー代謝調節や肥満との関係で興味深い知見である。
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