研究課題
基盤研究(A)
我々は、酵母におけるリン脂質非対称分布に異常を来した変異株の樹立とその原因遺伝子の解析から、膜リン脂質のフリップ・フロップを制御する新たな蛋白質ROS3を同定した。ROS3は酵母から哺乳動物まで幅広い生物で保存されており、細胞機能発現において普遍的な役割を果たしていることが示唆された。そこで、ROS3の多細胞生物における役割を明らかにすべく、まずショウジョウバエの個体発生における役割を解析した。具体的には、RNA干渉によるショウジョウバエにおけるROS3相同分子の発現抑制個体ならびにROS3過剰発現個体を作製し、各変異個体の形態形成異常を詳細に観察した。その結果、ROS3の発現抑制により著しい細胞サイズの減少が観察され、また過剰発現個体においては細胞の極性・形態形成に異常が観察された。これらの知見は、ROS3が細胞の極性形成ならびに細胞サイズの制御に重要な役割を果たしていることを示唆している。さらに、その分子メカニズムを明らかにすべく、哺乳動物培養細胞を用いてROS3の機能解析を進めた。その結果、培養細胞においてもROS3過剰発現により細胞サイズの著しい増加が観察され、ROS3の発現抑制により細胞の形態異常が認められた。これらの知見は、ショウジョウバエ個体で観察された現象が、哺乳動物培養細胞においても再現されることを示している。さらに、ROS3の過剰発現およびRNAiによる発現抑制した細胞株群を樹立し、その機能解析を進めた。その結果、ROS3はリン脂質輸送分子P型ATPaseと相互作用し、形質膜におけるリン脂質のフリップ・フロップ運動の制御することを明らかにした。また、ROS3過剰発現細胞では細胞面積が大きくなり活発に移動を行う様子が観察されたことから、トランスウェルアッセイによりROS3の細胞運動に及ぼす影響を詳細に検討した。その結果、ROS3はP型ATPaseならびに小分子量Gタンパク質Arf6と細胞の伸展部位に形成されるラッフル膜に局在し、局所的な膜リン脂質フリップ・フロップの調節を介して、Arf6などの小分子量G蛋白質の活性化を制御していることを明らかにした。これらの研究結果は、膜局所における脂質分子のフリップ・フロップの変化が、アクチン骨格の再編および形質膜てこの小胞輸送を制御し、細胞運動ならびにサイズ制御において重要な役割を果たすことを示す最初に知見となった。
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