研究課題
基盤研究(B)
初期に行った移植実験から、胎児由来の神経幹細胞の臨床応用には大きなバリアーがあり、また、成体由来の神経幹細胞は同種移植になることなど、神経幹細胞には応用面で大きな問題があることが分かった。一方、骨髄間質細胞は成体由来でしかも自家移植が可能であるために、移植細胞として大きな可能性を秘める細胞である。細胞は神経幹細胞と同様にラットの第4脳室から注入した。細胞は脊髄表面に付着し、少数は損傷部内に進入した。ラットの行動は、BBBスケールで弱い損傷の対照群は10ポイント(P)程度の回復、移植群は14-15Pに達した。また強い損傷では対照群8ポイントで、移植群は11P程度であった。空洞の大きさは対照群に比べて約半分に抑えられていた。アストロサイトの増殖が少なく、神経要素(細胞と突起)がより多く残存していた。また、移植した細胞が4〜5週後には消失していたことは、骨髄間質細胞が宿主に組み込まれて効果を発揮したのではなく、何らかの栄養因子群を放出して効果を発揮していることを示唆した。この考え方は細胞培養系でも支持された。骨髄間質細胞は、幹細胞としてではなく、成体由来の機能細胞として効果を発揮している。以上から、骨髄間質細胞は、損傷脊髄の初期に変性すべき運命にある組織の変性過程を抑え、その生存を促進する効果を発揮したものと考えられる。我々は、サルの骨髄から骨髄間質細胞を分離し、同一個体の髄液に注入することで安全性を確かめた。臨床応用のために、詳しいプロトコルを作成して関西医科大学の倫理委員会に提出し、2005年7月1日に承認を得て、現在臨床応用の態勢にある。これと並行して、培養脈絡叢上衣(皮)細胞の髄液内注入により、虚血による脳損傷が著明に修復されることを明らかにした。これは脈絡叢上衣細胞が脳の機能保全に重要な働きをしていることを示すもので、虚血による脳損傷の治療方法として新しい方向を示すものである。
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