研究概要 |
内皮細胞と平滑筋細胞を共存培養した血管モデルを用いて,内皮細胞表面に流れを負荷した場合の内皮細胞の機能変化,平滑筋細胞の遊走性を調べることにより動脈硬化症発生メカニズム解明を目的とした研究を行い,以下の成果を得た. 1.平滑筋細胞のみのモデルに比べ,共存培養血管モデルの平滑筋細胞遊走性は約1.8倍増加した.しかしせん断応力負荷により共存培養モデルの平滑筋細胞遊走性は有意に抑制された.また内皮細胞のNO合成を阻害した場合にはせん断応力によって平滑筋細胞遊走性は抑制されなかった.このことから静置培養環境下では内皮細胞によって平滑筋細胞の遊走性は促進され,せん断環境下では産生が増加した内細胞由来NOが平滑筋細胞の遊走性を抑制していることが明らかになった. 2.静置培養環境下において,内皮細胞のみで構築した単体培養モデルと共存培養モデルの物質透過性には差が見られなかった.せん断応力を負荷することにより共存培養モデルの物質透過性は有意に減少した.内皮細胞単体培養モデルの物質透過性に対するせん断応力の影響は観察されなかった.平滑筋細胞は内皮細胞の物質透過性に重要な役割を持つことが考えられた. 3.静置培養環境下において,血管モデルの内皮細胞に接着した白血球数は内皮細胞単体モデルに比べ約1.8倍であった.せん断応力を負荷することで血管モデルに接着した白血球数は減少し,内皮細胞単体モデルと差が見られなくなった.内皮細胞単体モデルでは白血球の接着性にせん断応力の影響は現れなかった.平滑筋細胞との相互作用により,内皮細胞表面の接着蛋白質発現が増加することで白血球接着性が上昇し.またせん断応力はこの上昇を抑制することが示唆された. これらの結果から,内皮細胞と平滑筋細胞は血流環境の変化によって互いの機能を変化させる相互作用を有し,動脈硬化症病変の進展に深く関わっていることが明らかになった。
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