研究概要 |
重篤な心臓疾患においては,病変部は心臓壁に均一に形成されるのではなく,左心室に貫壁性の不均一性を生じる.しかし,このように貫壁性に不均一な心筋病変部の弛緩機能を計測し得る臨床的な診断方法はいまだに開発されていない.そこで,本研究では,心筋の弛緩特性の貫壁性の不均一性を非侵襲的に評価し,さらに局所心筋ごとにその物理的特性を診断するための方法と計測システムを開発し,基礎実験によって精度評価を行うとともに,健常者への適用による基礎的評価と臨床応用を行った.本研究成果は次の通りである. 1.心臓壁の収縮機能・拡張特性の貫壁性不均一性の計測とその特性を2次元平面上でのイメージングできる診断法を新たに開発し,その装置の設計・試作を行った. 2.物理量が既知の対象に関する基礎実験を行うために,心臓を模擬したシリコーンゴムによる球殻を作成し,その弛緩時の特性の計測を行って,本計測法と本システムの評価を行った. 3.さらに心臓壁の拡張特性(心筋の粘弾性特性)の計測法とそのイメージング法を新たに開発し,(1)で試作した診断装置に処理系を加え,健常者5名において基礎データを計測し,計測法を評価して画期的な成果を得た.特にこの手法では,拍動によって大きく動いている心臓壁上の振幅数十ミクロン以下の微小運動速度波形を百Hzまでの帯域にわたり高精度に計測する.さらに超音波ビームを約16方向に送信することにより,左心室の数百点における微小運動速度波形を同時に計測できる.その速度波形を解析することで,心臓拡張期初期のタイミングにおいて,心筋上をパルス状の振動が心室中隔壁に沿って伝搬する現象を新たに見出した.さらにこのパルス波の位相速度を算出し,両側が血液に接した板上を伝搬するラム波の位相速度の理論式を用いることによって,心室中隔壁の粘弾性定数を決定することに成功している.これは従来には全くない画期的研究成果である.
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