研究概要 |
運動や運動トレーニングおよび食事制限が体脂肪量を減少させる分子機構を解明する目的で,脂肪細胞の分化・増殖やアポトーシスを制御する分子群の変化を中心に次の5つの角度から研究を行った:(I)ラット脂肪細胞のアポトーシスおよび生存シグナルに及ぼす運動の影響,(II)脂肪細胞の脂肪代謝に関わる遺伝子群の食事や運動による発現変化,(III)腫瘍壊死因子α(TNF-α)のシグナル伝達に及ぼす運動トレーニングの影響,(IV)ラット膵ランゲルハンス島のインスリン分泌に及ぼす運動トレーニングの影響,(V)ラット脂肪細胞のβ-アドレナリン受容体-Gタンパク質の運動による変化.その結果,以下の知見が得られた.(I)運動が脂肪細胞の生存シグナルとアポトーシスシグナルの変化に及ぼす影響をBcl-2/Bax比から検討した結果,後腹膜脂肪細胞および皮下脂肪細胞では運動後には生存シグナルが増強し,副睾丸脂肪細胞では運動後にアポトーシスシグナルの増強が起こる.(II)絶食や復食によって脂肪細胞の代謝に関わる遺伝子群に著しい変化が起こるが,運動は復食時の脂肪細胞の代謝能に影響を与え,復食前の運動は脂肪分解を促進するが摂食量を抑制することが明らかとなった.(III)脂肪細胞において,TNF-αが誘導する種々の遺伝子発現は運動トレーニングによって増強され,特に脂肪合成関連遺伝子発現の低下と生存シグナルの増強が引き起こされた.(IV)インスリン分泌応答の運動トレーニングによる低下には,抑制性Gタンパク質の減少と神経型一酸化窒素合成酵素タンパク質と活性の増加が関与していた.(V)運動によるβ-アドレナリン受容体とGタンパク質の変化はユビキチン-プロテアソーム系が関与していることが示唆された.以上のように,本研究は運動による体脂肪減少効果の分子機構を解明するためのきわめて重要な知見を提供している.
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