研究概要 |
研究成果としては,第一年度は,外科治療の適応がある癌患者の術前において,生活習慣及び心理社会的要因と生理的指標を調査し,患者の性格特性,情動レベル,ストレス対処能力などと,各種生理的指標(免疫,内分泌,遺伝子損傷など)との関連性について癌の病態ごとの分類を行なった.また,同時にストレス・マネージメントとして,簡易で長期的に実施できる方法(自律訓練法)を検討し,治療の時期と方法についての最適化のための検討も行った.続いて,第二から三年度にかけては,心理的治療の併用効果が,生理指標(尿中バイオピリン)や癌治療後の経過にどのように影響するかを臨床的に評価し,癌患者との比較による統計学的解析を加えて比較検討を行った. 今回用いた自律訓練法は,非常に簡便なストレス・マネジメント法であるが,これを行なうことにより,抑うつや不安などの心理状態の改善を図れることがわかった.しかし、延命効果あるいは治療効果の向上に寄与したかどうかは、今後の追跡調査結果を待たざるを得ない.また,バイオマーカーの測定結果は,一概に心理状態や治療経過と平行しないことが推測された.これは,癌治療には非常に複雑な要因が介在することより,酸化ストレスの過程とその修復過程のバランスに手術侵襲,放射線,化学療法などの身体的侵襲や不安,抑うつなどの情動的侵襲が加わり、非常に個別性の強い代謝経路をたどることに由来すると考えられる.客観的な生物学的指標は,癌治療においても非常に重要であるが,未だ研究の余地が多く残る領域と言わざるを得ない.
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