研究概要 |
この研究計画は,従来,個別に研究されてきていた日独露(旧ソ連)の原子力開発の歴史を,科学史,技術史の視点から,共通の問題意識と方法に従って,総合的に分析しようとするものである.比較研究の共通の視点は,2003年8月にドイツの戦時核開発の歴史を研究してきた海外共同研究者のMark Walker氏から11項目の要点(日本科学史学会欧文誌 Historia Scientiarum, Vol. 14の本研究の特集号の序に掲載)が提案され,これを受けて,1940年代の日,独,露の比較研究が進められた. 今回の研究計画の中で新しく明らかになって主な点は,以下の通りである. (1)旧日本海軍が技術研究所で,仁科芳雄を委員長とする「物理懇談会」で原子力の実現可能性について議論し,数ヶ月で解散となったことが知られていたが,その原因として,委員の一人であった長岡半太郎の役割が重要であったことが,海軍の科学技術審議会の議事録等で明らかになった. (2)2005年3月にドイツでRainer Karlsch著のHitlers Bombeが出版された.ロシアの文書館で発見された旧ソ連時代の資料などで,ドイツが1945年3月に核連鎖反応の実験を行ったことをはじめて跡付けたものである.Karlsch, Walker両氏の論文(研究発表欄の論文参照)が出たのを機に,日本でも検討が始まり,ドイツが核融合反応を試みたというKarlsch氏の主張については,慎重な検討が必要であるとの結論を得た. (3)海外共同研究者のVizgin氏から氏の「核の盾」(物理学をスターリンの干渉から守るためロシアの物理学者は核兵器開発に協力した)という主張に加えて,「核カルト」,「核コミュニティー」などの分析概念が提示された. (4)本研究の対象となった時期の3国は,「全体主義的国家」と見なされがちであるが,そこでの科学の展開については,政治的な環境を特別視せずに,各国の歴史を連続性と不連続性の両面から慎重に議論することが重要であることが再認識された(上記特集号序).
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