研究課題
基盤研究(B)
(1)微細藻類における重金属抱合ペプチド、フィトケラチンの機能フィトケラチン(PC)の合成は、植物ではCdで最も強く誘導される。これに対し本研究では、海産性緑藻Dunaliella tertiolectaにおいては、CdではなくZnで最も強く誘導されることを明らかにした。強い重金属無毒化能や活性酸素消去能を持つPCを毒性の低いZnで大量に合成誘導できるこの特性は、環境浄化や食糧増産に有用な重金属高濃縮植物や酸化ストレス耐性植物を作出する上で、非常に有用である。これまでPCは真核生物でのみ合成されるとされていたが、本研究により原核生物のラン藻にもPC合成酵素遺伝子が存在することが明らかとなった。そこで、Nostoc sp.PCC7120由来のPC合成酵素(NsPCS)を高等植物Arabidopsis由来の酵素(AtPCS1)と比較したところ、NsPCSは、AtPCS1のN末端側の約半分の配列しか持たず、またAtPCSが触媒する2反応のうち第一段階の反応のみを触媒し、さらにAtPCS1が重金属によって活性化されるのに対し重金属非存在下でも活性を示すことを確認した。これは原核生物においてPC合成酵素の存在を証明した初めての成果であり、また重金属によるPC合成酵素の活性化機構を解明する上でも非常に有用な情報である。(2)微細藻類におけるアブシジン酸の機能アブシジン酸(ABA)は、高等植物では様々なストレス緩和反応を誘導するシグナル物質として知られているが、同じ真核光独立栄養生物である緑藻では、その生理作用はほとんど明らかになっていない。そこで、緑藻Chlamydomonas reinhardtiiを材料として、ABAの作用と生合成調節機を解析した結果、ABAは本株でもシグナル物質として機能するが、植物とは異なり酸化ストレス緩和に限定された反応を誘導し、さらに生合成系の律速酵素の遺伝子発現も、植物とは異なり酸化ストレスで特異的に誘導されることを確認した。このような特性を利用すれば、植物において特定のストレス緩和反応のみを強く誘導することが可能であることから、実用的なストレス耐性植物作出に向けて非常に有用な情報である。
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