研究概要 |
本研究課題で利用するスピーカは,超音波を送りたい音声信号で振幅変調し,空気の自己復調現象を利用して,空間内に音声可聴音を再生するもので,指向性が極めて鋭いという特長がある。このスピーカを駆動するための変調器として,音声信号の包絡を取り出して,それをもって振幅変調する包絡変調方式を提案し,その方式のディジタル化をまず行った。この変調器を利用することで,従来の単なる振幅変調方式に比べて,スピーカを駆動する際の消費電力を36%低減できた。加えて,変調度の設定・調整が細かに変えることができた。更に,本音響システム全体のパワー効率改善を計った。ふつう,超音波エミッタは容量性の負荷となる。特に,共振周波数を外れた周波数領域では容量性が大きく,無効電力が大きくなり,これはパワーアンプ内での電力損失が増すことを意味する。無効電力を減らす方法として,ここでは超音波エミッタにコイルを並列接続して力率改善を行うこととした。実験によれば,共振周波数近傍を除いて全体的に無効電力を1/4〜1/3に減らすことが確認できた。これによって,従来の直接接続よりも電力損失が大幅に減ることが予想され,システム全体で考えたときに,パワー変換効率が改善できる基礎データを得た。最後に,視覚障害者用横断歩道の音響ユニットに,試作した音響システムを適用した場合の歩行データをまとめた。具体的には,6名の健聴な視覚障害者の協力を得て,現用のスピーカと試作したスピーカの俯角を16°,24°,41°の3段階に変え,それぞれの俯角で2回の歩行を行い,各スピーカについて計36回の歩行データを得た。これらの歩行において,現用のスピーカでは横断歩道からのはみ出し回数は7回,本スピーカでは2回であり,後者のスピーカでは回数が大幅に減った。したがって,超指向性スピーカが歩行の誘導に有効に働いているとの結論に至った。
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