研究概要 |
これまで不十分であった誘因(地震)特性を評価しうる大規模宅地谷埋め盛土の変動(地すべり)予測手法を作成した。すなわち,過去の地震による変動・非変動事例314例について,素因(盛土の厚さ,幅,厚さ/幅比,底面の傾斜,地下水の量,造成年代)と誘因(震源断層からの距離と方向,モーメントマグニチュード)を入力とし,変動の有無を出力とするニューラルネットワークモデルを作成した。このモデルは,学習群(阪神,仙台,釧路:214例)で約95%,予測(認識)群(阪神,仙台:100例)で約92%の正解率を有する良好な判別モデルである。これを東京-横浜地域の360例に適用した結果は,釜井ほか(2002)の多変量解析(数量化II類)とほぼ同様の傾向を示した。さらに,同じ手法を2003年三陸南地震,宮城県北部地震の災害事例に適用したところ,90%以上の的中率であった。現実にはあらゆる斜面について詳細な調査と解析を行うことは困難であるため,今回提案した簡易な不安定化予測手法は,ハザードマップの作成や対策の実施において有用である。 また,東京と和歌山において盛土と地山における地振動と盛土中の間隙水圧の連続観測を実施した。間隙水圧に非線形応答が発生する,やや強い地震の最大加速度応答は,減衰により台地上よりも谷埋め盛土上の方が小さくなる事が,観測と解析の両方で確認された。これは,現実には正確な把握が難しい減衰率ηのせん断歪みγ依存性が,応答に大きな影響を及ぼすことを意味し,現地調査と観測の重要性を強く示唆している。 上記の災害事例と観測結果に基づき力学モデル(ローラースライダーモデル)を提案し,これに基づく安定解析を行った。通常の二次元解析では,変動・非変動の事例を分離できないのに対し,上記のモデルに基づく準三次元安定解析では過去の事例を説明することができた。このことは,谷埋め盛土のメカニズムとして,底面の破壊と側部での抵抗が本質的に重要であることを示している。
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