研究課題
基盤研究(B)
本研究では、古代(7〜10世紀)地方官衙遺跡の掘立柱建物遺構を主たる分析対象として、基部構造、柱穴の形状・規模、建物の平面形式や規模等の諸属性を抽出・分類し、属性ごとのデータを収集し、データベースを作成して公開した。そして、各属性データの統計的分析をおこない、豪族居宅や集落の建物と比較しながら、官衙建物の造営技術の特性や在来技術との関係について追究し、官衙造営方式のあり方にっいて検討を加えた。その結果、礎石建物官舎の採用には官衙の等級差による規制がうかがえること、総地業を伴う礎石建物正倉の普及がする関東以北では、蝦夷征討などに備えた穀稲の永年貯積がとくに重視された地方的特質や技術のネットワークの存在を推測することができた。また、官衙の掘立柱建物では、居宅や集落に比べて、柱掘方が方形で棟方に直行する建物、大型の柱掘方を伴う建物の割合が高く、縄張りなどに合わせて柱掘方を機械的に掘削する方式が大規模な官衙建物造営と強く結びついていたことが知られた。また、官衙では柱筋の通りがよく、柱間は完数尺や等間の例が多い。それは、規格化された設計と良材を選び精度の高い部材加工を施す建築方式の存在を示している。また、建物の平面規模でも総体として大型の例が多く、柱掘方も深い例が多く、その深さと柱間寸法とには相関性が認められ、広い柱間を伴う建物の側柱高が高かったこともうかがえる。こうした官衙建物にみられる特徴は、その背後に豊富な資材調達と工人や役夫の労役編成があり、それらが造営指揮者によって統括されるという官衙造営システムが存在していたことことを物語るものであろう。このような造営方式は10世紀代までは維持されていたことも明らかになり、官衙造営技術のあり方も官衙の変遷を探る重要な糸口となることも判明した。
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