研究概要 |
一様な構造と強い乱れをもつ厚い(100nm)アモルファスMo_xSi_<1-x>膜の極低温・高磁場域におけるボルテックス状態を調べた。絶対零度(T=0)近傍まで液体相(量子ボルテックス液体[QVL]相)が存在すること,QVL相に相当する高磁場中で温度を減少させると,ある温度T_Qで抵抗の温度依存性の曲率が上凸から下凸へ変化し,T=0に向かって抵抗が残るような振舞いをすることがわかった。このT_Qは熱的液体相から量子的液体相へのクロスオーバーを表す特徴的温度と解釈される。QVL相の広さは,ほぼ常伝導抵抗率ρ_nに比例して磁場軸・温度軸方向に増大することもわかった。この結果は,ρ_nが量子ゆらぎを強めることを通してQVL領域の拡大をもたらすという描像と一致し,QVL相存在の強い証拠となった。 つぎに熱的液体相からQVL相への移り変わりに伴うボルテックスダイナミクスの変化を調べることを目指し,ボルテックスフロー電圧の時間依存性とノイズスペクトラム測定を行った。極低温域のQVL相でのみ,ボルテックスフローによる(平均電圧の周りの)電圧ゆらぎが観測され,その分布にボルテックスの進行方向に向かって長い裾野をもつ異常な非対称性が現れることがわかった。これは,QVL相ではボルテックスの速度あるいは数が時間の関数として断続的に増大することを示している。またここでは,大きなブロードバンドノイズが発生した。これらの結果から,QVL相においては,熱的液体相では見られない異常なボルテックスダイナミクスが存在していることがわかった。さらに2次元(膜厚6nm)でも,3次元の場合とほぼ同じ極低温域で,3次元と類似の異常なボルテックスダイナミクスが存在することを見出した。これらの実験結果は,量子ゆらぎが現れる極低温域のボルテックスダイナミクスが,次元性によらない普遍的なメカニズムに支配されていることを示している。
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