研究概要 |
研究代表者らは,本研究においてフェムト秒時間分解近赤外分光法を利用して次のような研究成果を得た. 1.ビアンスリルの電荷移動状態生成過程 ビアンスリルは,2個のアントラセン環がC-C単結合で結合した構造をしている.この分子が光を吸収すると,一方のアントラセン環からもう一方のアントラセン環に電子が移動する.これは,最も基本的かつ単純な化学反応の一つである.時間分解近赤外分光法を用いることでビアンスリルのLE状態とCT状態の両方を明瞭に区別して測定することができた.その結果,アセトニトリル溶液中では光励起によって生じたLE状態が直接CT状態に変化することが分かった. 2.酸化チタン光触媒におけるキャリア動力学 波長の長い近赤外領域のプローブ光を用いると,光散乱の大きな試料に対しても透過法による時間分解分光測定を行うことができる.時間分解近赤外分光法のもつこの特徴を利用して,粉末の酸化チタン光触媒(TIO4,粒径約20nm)を光照射したときに生じるキャリアの動力学について研究した.光照射後1ピコ秒以内に起こる電子の緩和過程,数十ピコ秒で起こる電子と正孔の再結合過程,および2ピコ秒で起こる酸化チタン微粒子から白金助触媒への電子移動の過程などを観測することができた.白金助触媒の担持による触媒活性向上の機構解明に寄与する実験結果を得ることができた. 3.対称および非対称置換ビアンスリルでの電荷移動状態 対称および非対称置換ビアンスリルの時間分解近赤外吸収分光測定を行った.その結果,対称置換体および非置換体では近赤外領域にCT吸収帯が観測されるが,非対称置換体ではこの吸収帯が観測されないことを見出した.この結果から,近赤外領域に観測されるCT吸収帯が電荷共鳴吸収に類似した機構で出現することが強く示唆された.
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