研究概要 |
発光性の多核金属錯体の光照射下での構造変化を単結晶X線構造解析法で解明するための,放射光X線を利用した装置および手法の開発をおこなった.特にレーザー照射時の結晶の熱負荷の影響を抑えるために,励起光とX線を同期して断続する装置を導入し,光照射時の温度上昇を光非照射時にくらべ25K以上から5K程度まで減少させることができた.この結果,結晶の熱膨張による結晶構造変化が押さえられ,光励起による分子構造の変化がより正確に検出できるようになった.具体的な研究成果は以下の通りである. 1 銅一価ポリマー錯体[Cu_2I_2(PPh_3)_2(4,4'-bpy)]_∞では青色レーザー(442nm)照射によりCu原子を架橋している2つのI原子が互いに近づく方向に接近し,Cu(I)からCu(II)の配位環境に近づく傾向をはじめて直接観測することに成功した.この動きは,錯体の金属-配位子電荷移動遷移(MLCT)に起因していると考えられ,その吸収帯より離れた緑色のレーザ(532nm)を照射したときには,原子の動きは見られなかった. 2 d-d遷移に伴う発光現象を示すロジウム錯体trans-[RhX_2(py)_4](BPh_4)(X=Cl, Br, I;py=C_5H_5N)では,光照射に伴いハロゲン原子の温度因子が原子より増大すし,特にRh-X結合に対して垂直方向への熱振動が大きくなることが観測された.このことから光励起状態では,分子構造の対称性を低下させるように分子が変形することによりd-d禁制遷移状態の安定化させていることが示唆された. 3 単結晶中で可逆な光異性化反応を起こすRh錯体[(Cp'Rh)_2(CH_2)_2(O_2SSO_2)](Cp'=Me_5C_5)について室温および低温での異性化率の時間変化をX線構造解析で追跡した.室温では1種類しかできない構造異性体生成物が低温では4種類現れ,結晶中での光異性化反応の光と熱平衡による立体異性体間の構造変化の様子を解明した.
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