研究概要 |
生体の凍結過程において,比較的遅い冷却速度の場合に細胞が損傷を受ける原因は,溶液効果と呼ばれる細胞外凍結に起因する電解質の濃縮とそれに伴う細胞の脱水収縮,および細胞外氷晶による機械的ストレスにあると考えられている.本研究は,どのような凍結条件の場合にどのメカニズムが支配的であるかを明らかにするとともに,溶液効果の本質に関する知見を得ることを目的とし,当該研究期間内に以下の結果を得た. 1.凍結解凍時の細胞周りの濃度変化を模擬して,等張→高張→等張と変化させる濃度変化実験を一定温度下(23℃および0℃)で行い,溶液の最終到達濃度,高濃度液への暴露時間,濃度上昇速度,濃度減少速度が細胞損傷に及ぼす影響を明らかにした.その結果,生存率の濃度依存性および暴露時間依存性が明らかになった. 2.細胞の損傷は,濃度上昇過程とその後の濃度減少過程の両方で生じ,しかも,後者のほうが優勢であることが明らかになった.この濃度減少過程での損傷は,濃溶液中での細胞収縮時に細胞膜の変性が生じ,それが原因でその後の再膨張に耐えられなくなることが原因で生ずると推察される. 3.細胞の凍結傷害要因を明らかにするため,凍結実験,および細胞まわりの濃度と温度を同時に変化させる模擬凍結実験の両方を同様の条件で行い,その比較を行った.その結果,凍結温度が高い場合には,細胞の凍結傷害は主に細胞外氷晶による機械的ストレスが原因で生じ,凍結温度の低下とともに溶液効果のほうが支配的になることが明らかになった.
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