研究概要 |
本研究の課題は以下の2つに大別できる.まず,第一の課題は,動学的不確実性下で寡占競争状況にある企業の戦略的行動を説明する理論,すなわち,"リアル・オプション・ゲームの理論"を構築することである.より具体的には,寡占企業が,自分のもつ戦略変数変更オプションを行使する状況を確率的制御問題として定式化した上で,起こりうる動学的均衡状態および均衡戦略の特性を明らかにした.各企業の戦略変数としては,まず価格変数のみの場合を考え,その結果を踏まえた上で,サービスの質的変数を加えた場合を解析した。その結果,質的競争関係にある企業の需要が補完的な場合と代替的な場合とでは,均衡戦略と状態変数の関係に大きな違いがあることがわかった.また,それらの均衡状態と社会的最適状態の関係についても明らかにした.第二の課題は,経済主体間の相互作用に空間が直接的な役割をはたす空間経済システムに対して上記のオプション・ゲーム理論を拡張することである.より具体的には,地主と企業の立地均衡モデルに,動学的不確実性(グローバル経済リスク)下での企業の参入・撤退オプション行使戦略を導入したモデルを構築し,立地規制・誘致戦略等が各主体の経済厚生に与える影響を解析した.そこで明らかになった主な結果は,1)グローバル・リスク要因のボラティリティが小さい場合は,地主は企業をすぐに参入させるが,ボラティリティが大きい場合は参入を待たせる,2)撤退オプションを企業に与えた場合,地主は地代を上げることによって,企業の撤退リスクを回避する,3)地主がグローバル企業に対し撤退オプションを与えず,撤退規制を行なうことにより地主・企業の両主体の厚生が改善(パレート改善)することである.
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