研究概要 |
本研究では,合理的耐風設計法を実現するために,設計風速の評価から風力・風圧係数の評価,建築物に発生する荷重の組み合わせの評価にいたる広い範囲の耐風設計上の諸問題を扱った。まず,設計風速の評価精度を向上させるため,新しい台風モデルを提案した。台風気圧場を支配する中心気圧低下量,最大旋衡風速半径などの平均,標準偏差などの統計量に加えて固有直行関数展開を用いて相関を再現することに成功した。地上風速の予測には,台風記録のパラメータをデータベース化し,気象観測データとのハイブリッド利用によるシステムを構築した。その結果,風向特性までも再現可能なモデルの構築に成功し,より詳細な設計風速の評価が可能となった。次に,風向別の設計風速を設定する際に必要となる空気力学的地表面粗度を市街地の建築密度等の情報から評価する手法を明らかにした。これらの手法により,日本全国の気象官署における風向別の設計風速の評価が可能となった。建築物に作用する風圧力は,幾何形状に大きく依存するため,厳密には全ての対象に風洞実験を実施なくてはならない。現状では,限られた形状の風圧力が基準類に掲載されているが十分とは言いがたい。そこで,多くの幾何形状に対する多点変動風圧実験を実施し,記録のデータベース化を図った。この風圧データを用いて複数の建築物および構造物のFEMモデルを構築し,部材レベルでの建物解析モデルを構成し,部材応力の直接シミュレーションが実施された。膨大なケースの風応答計算に基づき,部材の応力に風荷重の組み合わせがどのように影響しているか,また,その効果を考慮できる合理的耐風設計手法が開発された。今後は,さらなる電子計算機の数値計算能力,記憶容量,データアクセス速度等の向上により,本研究で構築された手法がより洗練され,耐風構造,強風災害の低減につながるシステムの構築が可能となる。
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