研究概要 |
銅酸化物からなる高温超伝導体は臨界温度T_cが高く,液体窒素温度77Kにおける応用が期待されている.特にYBa_2Cu_3O_<7-x>(YBCO)高温超伝導体(T_c=92 K)は,77Kにおいても臨界電流密度J_cが高く,単結晶基板上にエピタキシャル成長した薄膜においてJ_c=(3〜6)×10^<10> A/m^2(77 K,自己磁場)の特性が得られている.YBCOの高J_c特性を利用するため,金属基板テープ上に酸化物緩衝層を介してYBCO薄膜を形成したY系テープ線材作製の試みが最近盛んに行われている,しかしYBCOは結晶異方性が強く,コヒーレンス長が短いため結晶粒界の影響が大変顕著である.長尺テープ線材においては多結晶薄膜を用いることになるので結晶粒界によるJ_c低下が大きな問題となる.結晶粒界の影響を小さくしてYBCOの特性を最大限に引き出すには,金属基板テープ上のYBCO多結晶薄膜の結晶粒界角度を10度以下にまでそろえる2軸配向化技術の開発が大変重要である. この課題を検討するために,2軸配向化したNiおよびNi-0.1mass%Cr合金テープを作製し,その上にパルスレーザー蒸着法でCeO_2薄膜を形成し,これら薄膜の結晶方位や微細組織等を調べた.Crが微量添加されたNi-Cr基板は強い{100}<001>配向組織を持ち,表面のほとんどが(100)配向した結晶粒で占められ,同基板上に成長したCeO_2も強い2軸配向性を示した.Ni基板も{100}<001>配向し,その上においても(100)配向したCeO_2薄膜が得られるが,CeO_2の(100)配向性は薄膜形成時の酸素分圧にも強く依存しており,低酵素分圧側において(100)配向した薄膜が得られやすく,さらに(100)面の配向度は膜厚が大きくなるにつれて増大した.さらにYBCO超伝導薄膜におけるJ_c制御因子についての研究も行った.転位や結晶粒界などの結晶欠陥を有するYBCO薄膜に関して,磁場の大きさとともに磁場印加方向を種々変化させてJ_c測定を行うことでどのような結晶欠陥がJ_cに影響を与えているかを調べた.その結果,基板に垂直に形成される転位がJ_cに大きな影響を与えていることが明らかになってきた,これらの成果によって,金属基板テープ上のYBCO薄膜に転位を高密度に導入することによって特性制御できる可能性が開けてきた.
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