研究概要 |
MOCVD法では,原料の有機金属化合物原料が配管や反応容器内で相互作用を起こし,ガスから薄膜が析出する際に基板との間で複雑な反応を起こすことが知られている.本研究では不明な点が多いMOCVD法による酸化物系薄膜の合成機構に関して,強誘電体薄膜を例に,有機金属化合物原料から目的酸化物薄膜が構築される様子を検討した.また,Si基板上に酸化物薄膜を成膜するために必要な,バッファー層(CeO_2/YSZ)の結晶化過程や,透過型電子顕微鏡による微構造観察を行った. MO原料の気相中での反応や分解を検討するために,FTIRを導入したMOCVD装置を作成した.Ti(O-i-C_3H_7)_4(TTIP)の気相中での分解挙動とTiO_2薄膜の関連を検討した.得られたTiO_2薄膜は基板温度によって,組成,結晶性,微構造が大きく変化した.低温(300℃)で成膜した薄膜は,高温(400℃以上)に比べ微構造が粗く,FTIRの観測から薄膜中にC-Hに起因するピークが観測された.原料ガスの分解速度は温度に依存するが,600℃まで加熱しても,完全には分解しない.すなわち,基板には分解原料と未分解原料が到達しており,基板表面が触媒作用を示し,酸化反応が促進されている. 鉛β-ジケトン錯体(Pb(DPM)_2)とTTIPを用いてMgO(001)基板上に成膜したところ,650℃成膜において,Pb/Ti比が1または,それ以上の時,定比のPbTiO_3薄膜が得られた.Pb過剰のときは,Pbの再蒸発によるPbTiO_3の自己組成制御性が示唆された.Pb(DPM)_2とTTIPを加熱すると,Pb(DPM)_2の1600cm^<-1>付近の吸収が消滅し,1260cm^<-1>付近に新たな吸収が観察された.すなわち,相互作用したPbとTi原料が,中間体が生成していると予想され,シュミレーションによりPb-O-C-Ti結合を持つと予想された. PZT薄膜をPT用原料とPZ用原料をパルス供給し,PT,PZガス,Ar,真空雰囲気を組み合わせた4種類のパターンについて行った.MgO基板上では,パターン種によって組成が変化し,結晶化挙動も変化したが,ほぼ定比で結晶化した.Si基板上では結晶化はしないものの,組成的には,あるパターンでほぼ定比の膜が得られた.また,原料とArを交互に流した時に,最も平滑な表面が得られた.すなわち,パルスパターン及び雰囲気の変化により原料の吸着過程が大きく変化することが確かめられた.
|