研究概要 |
一般に,マグネシウムおよびその合金は,耐食性に劣るとされる.これを改善すべく,3種類の処理法を開発した.まず,マグネシウム合金の腐食反応で形成される水酸化マグネシウムに注目した.この皮膜は腐食初期の全面腐食の際に,試料表面に均一に形成され,ある程度の耐食性を示す.しかし,その後の腐食反応を抑制できない.水酸化マグネシウム,Mg(0H)_2,からH_2Oを取れば,すなわち,脱水反応を生じさせれば,酸化マグネシウム,MgO,に変化することに気付き,高pH水溶液中で故意に腐食させ,その後大気中で加熱するという手法を考案した.腐食無しに直接大気中で加熱すると,脆い酸化マグネシウム皮膜しか形成できないが,この人工腐食・酸化処理法によれば,緻密な皮膜を形成させることが可能であった.マグネシウム合金を最終的に腐食させる過程は糸状腐食と呼ばれるものである.無処理のAZ31合金について,1%NaC1水溶液を用いて塩水浸漬試験を行うと,糸状腐食発生までの時間はおよそ1.7ksであったが,この人工腐食・酸化処理を施した試料においては,約30ksとなり,著しく耐食性を向上することができた.また,塩水浸漬直後には腐食反応の結果である水素の発生がまったく見られず,導電性の無い皮膜となっていることが明らかとなった.この手法を改良し,人工腐食の方法に電解析出法を適用したのが2種類目の処理法である.腐食後,大気中加熱により酸化マグネシウムに変化させることは同じである.AZ31合金を3%食塩水中に浸漬し,腐食減量を測定した結果,最初に述べた腐食・酸化処理によるものでは8.6mg/cm^2/dとなったが,電解析出・腐食処理を施した試料では,およそこの値の1/2である4.2mg/cm^2/dとなり,耐食性はさらに向上した.3種類目の手法は,NaBF_4を673Kに加熱して溶融させ,そこに試料を浸漬してフッ化物皮膜を表面に形成するものである.MgF_2とNaMgF_3からなる10μm程度の厚さの皮膜を形成させることができた.上記同様な1%NaC1水溶液中の塩水浸漬試験では,1296ks(15day)まで糸状腐食の発生を抑止することができた.これは,MgF_2,NaMgF_3ともに化学的に安定な化合物であり,導電性が無いことによる.さらに,この表面改質処理をほどこした試料は,1%の濃度の塩酸,硝酸水溶液中でも20〜30ksの間,腐食を抑制できることが明らかになった.これら3種類の処理法にはそれぞれ一長一短があるが,いずれもマグネシウム合金のリサイクル性を損なわず,環境に掛ける負荷をできる限り少なくするという共通点がある.
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