研究概要 |
細管型CVD反応器を用いて,1010℃,50Torrで熱分解炭素成膜実験を行った。気相における複合反応によって生じる種々の炭化水素ガスの影響を調べるために,メタン,エタン,エチレン,アセチレン,プロパン,プロピレン,アレン,アリレン,n-ブタン,ベンゼン等を原料として,成膜実験を行い,熱分解炭素膜を得るとともに,マイクロガスクロを用いて気相反応生成物の分析を行った。XPS測定の結果によれば,プロパンを供給原料として得られた膜中のC-C結合は約70%がsp^3構造で,sp^2構造は少なかった。プロピレンを供給して作製した膜では,sp^3構造は30%程度に低下し,アレンの場合には,15%程度にまで低下した。X線回折,ラマン分光の結果ではいずれのサンプルも非晶質構造を示したが,TEM観察では,ベンゼンならびにアレン,アリレンから作製した膜中に一部,層状構造が認められた。ガス分析の結果によれば,プロパンを原料とした場合でも反応器中で5%程度のアレン,アリレンが生成することがわかっており,プロパンから得られた膜中に認められたsp2構造の起源は気相生成物のアレン,アリレンであると思われる。気相中の成膜前駆体の種類によって製品膜構造が決定されると考えられる。また,素反応データベースを用いて,気相反応の数値シミュレーションを行い,数百におよぶ素反応からなる反応機構から,設計目的に耐える反応工学的モデルを構築する手法を開発した。これは,まずシミュレーション結果から反応速度の大きい素反応のみを選ぶことにより,考慮すべき素反応の数を大幅に減らした上で,反応工学的考察により合理的にモデルを縮小する方法である。素反応シミュレーションと気相生成物測定の結果から,プロパンの熱分解に関する651の素反応から26個の重要な素反応を抽出したプロパン熱分解の簡略モデルを構築した。本モデルは実験値を良好に予測した。
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